紫外線との共生をめざして

ノンケミカルという言葉の悪辣さについて

ノンケミカルという言葉の悪辣さについて

人気の日焼け止めを調べているときに、真っ先に眼に飛び込んでくるのは「ケミカル」「ノンケミカル」という言葉なのではないかと思います。

日焼け止めは、この「ケミカル」「ノンケミカル」という二種類の日焼け止めに大別されるということになっており、「人気の日焼け止め」という文脈で語られる場合、「敏感肌の方に人気なのは、ノンケミカルの日焼け止めだ」といった書かれ方をされることが多い傾向にあります。

また、そのような書かれ方をしていない場合でも、「ケミカル」「ノンケミカル」をどのように区別しているか、という基準を知らない場合、この「ノンケミカル」という「ケミカルではない」日焼け止めの言葉の表面の印象だけで「ノンケミカルというくらいなのだから、化学物質などが一切使われておらず、きっと肌によい日焼け止めなのだろう」という判断をしてしまいがちです。

実は、この「ノンケミカルは安全」「ノンケミカルはケミカルと違って化学物質不使用である」という認識は大きな間違いと言わざるを得ないものですが、困ったことに、このような「ノンケミカル」にまつわる間違った認識は、間違いをあまり訂正されることもなく、我が物顔の堂々とした態度でまかりとおっているというような、やや危険な現状があるように思われます。

ケミカルとノンケミカルをわける基準

大前提として、化学物質が使われていない日焼け止めというものは存在しないと考えた上で、「ノンケミカル」の日焼け止めを判断しなければいけません。
しかし、これは決して難しいことではありません。「ケミカル」「ノンケミカル」の日焼け止めを分ける基準は一つしかなく、さらに、その基準は驚くほど明快であり単純でもあるからです。

「ケミカル」「ノンケミカル」の日焼け止めを分ける唯一にして絶対の基準、それは「紫外線吸収剤の有無」です。紫外線吸収剤が使われている日焼け止めであれば「ケミカル」、紫外線吸収剤不使用の日焼け止めであれば「ノンケミカル」という言葉がそれぞれの日焼け止めにあてがわれることになります。

「紫外線吸収剤」という言葉は、その実質を知らなくても、字面を見ただけでもいかにも身体に害を与えそうな化学物質のニオイがぷんぷんしてくるような言葉であります。実際、「紫外線吸収剤」が化学物質そのものであることは疑うことができません。

紫外線吸収剤の害は否定できない

「紫外線吸収剤」は、オキシベンゾン、パラアミノ安息香酸、パルソールA、サリチル酸オクチル、プソラレン、ジベンゾイルメタン、メギゾリルSX、ケイ皮酸などを合成したものである、などと書くと、いよいよそのような化学物質を肌の上に塗り込むことに恐怖を抱きはじめる人も、あらわれるかもしれません。

「紫外線吸収剤」は化学物質ではあるが肌に悪影響はない、などと書くことは、私にもできません。「紫外線吸収剤」は、「紫外線吸収剤」と相性が悪い人の肌の表面や身体の内部に対して何かしらの悪影響や後遺症などを与えることを完全に否定することはできないからです。

「紫外線吸収剤」については、アレルギー反応の誘発、炎症、ホルモン異常の原因、発がんのリスク、母乳への影響などが指摘されています。

このように、あらためて「紫外線吸収剤」の害について軽く書いていきますと、どうにも「ケミカル」の日焼け止めは悪であり、「紫外線吸収剤不使用」「ノンケミカル」の日焼け止めに分があるように思われてきます。

しかし、このような「ケミカル」を悪としてとらえて「ノンケミカル」に軍配をあげていく、というような考え方こそが「紫外線吸収剤不使用」「ノンケミカル」の日焼け止めの「罠」でもあるわけです。

ノンケミカルという言葉の狡猾な罠

ノンケミカルという言葉の狡猾な罠

「ノンケミカル」の日焼け止めの「罠」とは一体どういったものなのか。それがどのような「罠」であるかを知るためには、もう一度、「ノンケミカル」の日焼け止めの絶対的な基準、その言葉の定義を思い出すだけで充分でしょう。

「紫外線吸収剤不使用の日焼け止めは、すべてノンケミカルの日焼け止めとする」、これが、「ノンケミカル」の日焼け止めの定義でした。

この定義は、次のように裏返すようにして理解しなければなりません。それは、こうです。「紫外線吸収剤以外の化学物質がどれだけ使われていようとも、紫外線吸収剤不使用である限り、その日焼け止めはノンケミカルと呼ぶことが可能である」

つまり、「ノンケミカル」といわれる日焼け止めは、「ノンケミカル」という言葉の表面とは違って、「紫外線吸収剤不使用」であれば、ケミカルな物質をいくらでも成分として組み込めてしまう日焼け止めであるのです。

穿った言い方をするならば、「紫外線吸収剤不使用」という最低限のルールさえ守っていればあとは「なんでもあり」になるという、ちょっとしたバーリトゥード的な性格を持つ日焼け止めが、「ノンケミカル」の日焼け止めということになります。

ノンケミカルという言葉は日焼け止めの化学成分を隠蔽する

「ノンケミカル」の日焼け止めは「紫外線吸収剤不使用」であるかわりに、「紫外線散乱剤」を使用しています。

この「紫外線散乱剤」は、おもに酸化チタンや酸化亜鉛といった成分でつくられています。これらの、酸化チタンや酸化亜鉛といった成分は、「紫外線吸収剤」で使われる化学物質に比べると多少は身体にいい、害がない、安全である、毒性はない、ということになっているようです。

「そのデメリットは肌の上で白く浮くことくらいである」とも言われています。

ここで、人の肌というのは個人差があり、肌に対して絶対的な安全が担保されている日焼け止めというものはない、というそもそも論を持ち出すことも、酸化チタンや酸化亜鉛によって構成される「紫外線散乱剤」の塗り心地をよくして「白く浮く」ことを防ぐための「ナノ粒子」は発がんの危険性が指摘されている、というようなことをデメリットとして提示することも可能でしょう。

それらの「紫外線散乱剤」の考えうるデメリットやリスクなどを考慮し、一つ一つ検討していく作業は決して無駄ではありませんし、人気の日焼け止めのリストのなかから自分が使用する日焼け止めを選択する場面において、このような検討のプロセスが有効であることは言うまでもありません。

ですが、そこを考えるのは当然であるという前提の上で、それ以上に、やはり、「ノンケミカル」という一見すると身体に害のある化学物質が一切使われていなさそうな言葉の裏側で、「ノンケミカル」の日焼け止めに、界面活性剤、防腐剤、添加物、着色料、香料、撥水のためのシリコンなどの化学物質がふんだんに使われている場合が多々あるという問題をしっかりと見ることが重要であるように思われます。

ノンケミカルという言葉を疑う姿勢を持つ

「ノンケミカル」の日焼け止めは「ノンケミカル」であるのだから「ケミカル」の日焼け止めに比べて安全だなどと思い込むことをやめて、「ノンケミカル」という言葉の内実を知り、その言葉を批判し、「ノンケミカル」の日焼け止めに対しては厳しい眼差しを注いでいく必要があります。

「ノンケミカル」の日焼け止めが、「ケミカル」の日焼け止めとそれほど変わらない量であったり人体に害がある化学物質を使用している可能性、あるいは、「紫外線吸収剤不使用」というルールを活かして「ケミカル」以上に化学物質を使用している可能性があります。

人気の日焼け止めの中から自分の肌質にあった日焼け止めを選択していくためには、「ノンケミカル」という言葉を疑う姿勢が求められます。「ノンケミカル」という言葉に懐疑的になる地点から、ようやくはじめて日焼け止めを探し始めることができるのだといっても過言ではありません。

何も「ケミカル」を称賛したいというわけではない

これは何も「ケミカル」の日焼け止めのほうが安全である、ということを言いたいのではありません。「ケミカル」の日焼け止めが肌にダメージを与えるという事実は否定できませんし、「ノンケミカル」をさげることによって「ケミカル」の地位をあげていく、というような目的が私にあるわけではありません。

ただ、「ケミカル」の日焼け止めの危険性の喧伝とセットになって行われる「ノンケミカル」の日焼け止めの安全が主張されて疑いが挟まれることが少ないフェアではない現状に対して危惧を抱いているだけです。

「ケミカル」であろうと「ノンケミカル」であろうと、化学物質が一切使われていない日焼け止めなどはありませんし、肌に何かしらのダメージを与える可能性がゼロである日焼け止めもありません。

「ノンケミカル」という言葉は、これらの日焼け止めにまつわる事実を巧妙に隠蔽する、極めて卑怯な、許しがたい言葉であると私は考えています。

この「言葉の卑劣さ」という一点に眼を向けるならば、「ケミカル」と呼ばれている日焼け止めのほうが、「有害な化学物質が使われている日焼け止めである」ということに対して正直である分、まだいくらか好感が持てるように思えます。

特に「敏感肌のあなたにオススメなのは絶対にノンケミカルの日焼け止め!」などという無責任な言葉と比べたとき、「ケミカル」という言葉は良心的であるとさえいえるでしょう。

繰り返しになりますが、これは言葉をめぐる問題であって、「ケミカル」と呼ばれる日焼け止めが「ノンケミカル」に比べて安全でありオススメだという文章ではありません。「ケミカル」の日焼け止めは、人によっては、「ノンケミカル」の日焼け止めと同程度に肌にとって危険である日焼け止めだといえるでしょう。

健康的な言葉に弱い人たちを狙い撃ちする言葉

健康的な言葉に弱い人たちを狙い撃ちする言葉

オーガニック、無添加、自然といった言葉は、健康志向の世の中においてきわめて魅力的な響きを持っています。ケミカル、添加物てんこもり、人工的というような言葉と並べると、その魅力は明らかです。

日焼け止めにおける「ノンケミカル」という言葉は、これらの魅力的な言葉に「弱い」人たちを狙い撃ちし、騙すために開発された言葉です。

「ノンケミカル」の日焼け止めは、化学物質や添加物などが含まれている人工的なものであるのですが、「紫外線吸収剤不使用」というだけで「ノンケミカル」という言葉が与えられたがために、さながらオーガニックや無添加や自然に属するものであるかのように扱われてしまいます。というより、そのように扱われることを目的にして意図的に命名されているのです。

すべての日焼け止めはケミカルである

それが「ケミカル」であろうが「ノンケミカル」であろうが、日焼け止めというものは、それが日焼け止めである以上、基本的にすべてがケミカルなものである、というのが私の考えです。

「紫外線吸収剤が使われているケミカルな日焼け止め」「紫外線吸収剤不使用」のケミカルな日焼け止め」の、どちらもケミカルな日焼け止めを、それぞれ「ケミカル」「ノンケミカル」などという言葉で分けるのはまったく考えものです。

すべての日焼け止めはケミカルであり、また、人の肌には個人差があります。ですから、「ケミカル」だろうが「ノンケミカル」だろうが、人の肌は荒れるときは荒れてしまいます。

肌荒れを起こしたときは、「肌に優しいはずのノンケミカルなのになぜ?」などという誤った疑問にとらわれるのではなくて、「紫外線吸収剤以外の何かしらの成分が自分の肌とあわなかったのだろう」と冷静に判断できるとよいでしょう。

「ノンケミカル」という言葉は商品を売るための都合のいい方便に過ぎません。このような狡猾な言葉に惑わされないように、ケミカルであることが前提の人気の日焼け止めの中から、自分の肌と相性がいい日焼け止めを見つけ出しましょう。